クラシック音楽、オーケストラによるダイナミックな交響曲や、ピアノやバイオリンなどのソロの演奏を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、「室内楽」という演奏形態も、クラシック音楽を楽しむ上で忘れてはならないジャンルのひとつです。
今日は、室内楽の中でも最高峰と位置付けられる『弦楽四重奏』について、その魅力を一緒に学んでいきましょう。
弦楽四重奏(カルテット)とは?
弦楽四重奏は数ある室内楽の中のひとつであり、2つのヴァイオリンとヴィオラ、チェロという4つの弦楽器で構成されています。
弦楽四重奏の構成
まずは、それぞれの楽器の役割を見ていきましょう。
第1ヴァイオリン
主旋律や音の高いパートを担当します。全体をリードする役目を担うこともあります。
第2ヴァイオリン
主に伴奏の音型や低い音域を担当します。第1ヴァイオリンよりも難しい部分を演奏することもあります。
ヴィオラ
華やかな音色を持つヴァイオリンと比較して、柔らかく暖かい音を奏でるヴィオラ。第2ヴァイオリンとチェロの間の音域をカバーし、ハーモニーを豊かにします。
チェロ
合奏の低音部を担当します。基盤の音となることで、全体を支える役割ともいえるでしょう。音域が非常に広いので、艶やかな高音域でメロディを奏でることもあります。
弦楽器だけのシンプルな構成ではありますが、濃密な音を紡ぎ出す弦楽四重奏は、有名な作曲家たちが真価を試す場として意欲的に創作に取り組んだ、奥深い分野です。
弦楽四重奏の始まり
弦楽四重奏の始まりは、イタリアの作曲家であるアレッサンドロ・スカルラッティが作った「2つのバイオリン、ヴィオレッタとチェロのためのソナタ」だといわれています。
この音楽スタイルが作曲家の間で徐々に広まってゆき、後に弦楽四重奏曲の父と呼ばれるハイドンへと受け継がれました。
ハイドンは、68もの弦楽四重奏曲を遺しています。そして、モーツァルトやベートーヴェンに受け継がれ、創作されることにより、クラシックの真骨頂とみなされるほどの分野に成長しました。
以降、シューベルト、ラヴェル、バルトークといった後世に続く多くの作曲家が、このジャンルに曲を残しています。
弦楽四重奏がクラシックの王道と呼ばれるのはなぜ?
なぜ弦楽四重奏はこれほど、多くの名だたる作曲家たちを魅了したのでしょう?
最低限の手段だけで作曲する必要がある難しい分野
弦楽四重奏は、先ほど説明したとおり、たった4つの楽器によるアンサンブルです。しかもすべて弦楽器であり、音の高さの領域が異なるだけで、オーケストラに比べると音の色あいが制限されます。他の楽器との対比で表現するという手法が通じないのです。
作曲家にとっては、ここが腕の見せ所といったところでしょうか。
演奏家にとっても難易度の高い音楽
弦楽四重奏は演奏家にとっても難しい音楽です。4人の弦楽器で、どれだけ作曲家がイメージした世界観を音色を揃えて演奏できるかというのが重要なポイントとなります。
また、オーケストラのように指揮者がいないため、演奏のタイミングや間合いをとることが必要で、演奏家にも高い技術が要求されます。
じっくりとクラシックを味わいたい人におすすめ
壮大な世界観を堪能できるオーケストラも、もちろん素敵です。しかし、じっくりと、しかもリーズナブルにクラシック鑑賞を堪能したい人には弦楽四重奏はかなりおすすめの分野なのです。
なぜなら、演奏者に実力の高さがのわりにリーズナブルな価格でコンサートを楽しめるからです。高くても5千円程度の価格帯で、一流の演奏をライヴで堪能することができます。
一見地味に感じられる室内楽ですが、「演奏者の表情や視線の動き、お互いの音をどう感じ合い、ハーモニを紡いでいくのか」そんな気配をそばで感じるのが、弦楽四重奏をライヴで聴く醍醐味かもしれません。
弦楽四重奏おすすめの曲 5選
弦楽四重奏を聴いてみたい方におすすめの、次の5曲をピックアップしました。
- ハイドン 弦楽四重奏第77番「皇帝」
- ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 第13番 第5楽章
- ボロディン 弦楽四重奏 第2番 第3楽章
- チャイコフスキー 弦楽四重奏第1番 第2楽章
- ラヴェル 弦楽四重奏曲
それぞれ、どんな曲なのか見ていきましょう♪
ハイドン 弦楽四重奏第77番「皇帝」
ドイツの国家として歌われているハイドンの曲です。皇帝という副題は、第2楽章がハイドンの歌曲「皇帝賛歌」を主題とした変奏曲であることに由来しています。
オーケストラではなかなか難しい、楽器それぞれの音が楽しめるのがポイント。ハイドン独特の軽やかなメロディの中で、第1ヴァイオリンや第2ヴァイオリンの掛け合いを堪能できるのもカルテットの魅力です。
ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 第13番 変ロ長調 Op.130 第5楽章 「カヴァティーナ(Cavatina)」
ベートーヴェンが作った曲の中で、最も美しいと称賛される音楽です。メランコリックな雰囲気の漂うハーモニーがとにかく美しい。それでいて、壮大なスケールと繊細で美しすぎるメロディに虜にされます。
カヴァティーナが作曲された頃、ベートーヴェンは既に聴力をほとんど失っていました。だからこそ、音のない静かな世界から、こんなにも透明感のあるメロディを生み出すことができたのかもしれません。
ちょっと話が飛びますが、1977年に打ち上げられたアメリカの宇宙探査機ヴォイジャーをご存知でしょうか?
この探査機には、宇宙人に地球の生命や文化の存在を知らせるために、音や画像が収められた「ゴールデンレコード」なるものが搭載されています。そして、その中のひとつにこの「カヴァティーナ」が選ばれています。
宇宙人がこの美しい「カヴァティーナ」を聴いたら何を感じるのか、興味深いところ。ぜひ発見して欲しいです!
ボロディン 弦楽四重奏 第2番 第3楽章 「ノクターン」
どこかで聴いたことがあるような、懐かしい気持ちを呼び起こす音楽です。第3楽章のノクターンでは、その名のとおり、静かな夜にしっとりと浸かりたくなる、暖かく美しいメロディを堪能できます。
またこの曲は、ボロディンが奥様に愛を告白した20周年の記念に捧げたものです。エピソードも曲も、とてもロマンチックですね。
チャイコフスキー 弦楽四重奏曲 第1番 第2楽章 「アンダンテ・カンタービレ」
多くの交響曲やくるみ割り人形、白鳥の湖などのバレエ音楽で知られる、チャイコフスキーの弦楽四重奏曲第1番です。
全部で4楽章からなる楽曲ですが、2楽章の「アンダンテ・カンタービレ」は、独立した楽曲としても有名です。冒頭の優雅なメロディを耳にしたことがある人も多いでしょう。
「アンダンテカンタービレ」は、ウクライナ民謡の「ヴァーニャは長椅子に座り」の音楽を用いて作り出されました。情緒あふれるやさしい音楽と中間部に見られる切ない旋律が美しく、かの文豪トルストイもこの曲に涙したといわれています。
ラヴェル 弦楽四重奏曲
フランスの作曲家ラヴェルが残した、ただ1曲の弦楽四重奏曲です。4楽章から構成されています。
通常ならば成熟期に達した作曲家が取り組む弦楽四重奏ですが、28歳頃に書き上げている点がやはりラヴェルという作曲家の驚くべきところですね。
テレビCMのBGMで採用されたこともあるので、どこかで耳にしたことがあるという方もいるのではないでしょうか。
個人的には第2楽章が好きで、躍動感溢れるピチカートで始まる冒頭部におしゃれさを感じます。また中間部にはテンポを落として緩やかで幻想的な部分も。奥行きのある音楽が楽しめます。
弦楽四重奏を楽しもう
音楽のエッセンスがぎっしり詰まった弦楽四重奏についてお伝えしました。
作曲家にも演奏家にも高い音楽技術が求められる楽曲ですが、楽しみ方は人それぞれです。
ランチタイムコンサートなどでも演奏されていますし、サロン的な空間で楽しむことができるので、音楽と演奏家の方たちをとても身近に感じられます。
弦楽四重奏は、質の高いクラシックをちょっと気軽に楽しむのに最高のジャンルです。ぜひ聴いてみてくださいね。
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